「また今月も、赤字か……」
深夜、スマホの家計簿アプリを見つめながら、私は深いため息をついた。
画面に表示された「今月の収支:マイナス32,000円」という赤い文字が、目に痛い。
私は、35歳のパート主婦。
夫の給料と私のパート代を合わせても、毎月カツカツの生活を送っている。
小学3年生と1年生の2人の子供たちは、どんどん食べる量が増え、習い事のお金もかかるようになってきた。
「節約しなきゃ」「貯金しなきゃ」
頭ではわかっているのに、なぜか毎月お金が消えていく。
見えないお金の使い道
「私、そんなに無駄遣いしてるかな?」
翌日、家計簿の履歴を遡ってみた。
スーパーでの食料品、ドラッグストアでの日用品、子供の靴、私の美容院代。
大きな買い物はしていない。
ブランド物のバッグも買っていないし、高級フレンチにも行っていない。
でも、「数百円」のチリツモが、家計を圧迫していた。
仕事帰りに寄ったコンビニでの、ご褒美スイーツ。
「今日は疲れたから」と頼んだ、デリバリーのピザ。
100円ショップで「これ便利そう」とカゴに入れた、結局使っていない収納グッズ。
ストレス発散のための「小さな無駄遣い」が、積もり積もって数万円になっていたのだ。
「貯められない」という自己嫌悪
ある日、ママ友とのランチ会でのこと。
「うち、ようやく教育資金の目標額貯まったの!」
「うちは新NISA始めたよ。将来不安だしね」
飛び交う「貯金」や「投資」の話題に、私は愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「うちなんて、毎月ギリギリで……」なんて、恥ずかしくて言えなかった。
家に帰り、通帳を開く。
そこにある残高は、家族4人が何か月か暮らせる程度のスズメの涙。
もし夫が病気になって働けなくなったら?
もし私がリストラされたら?
子供たちの大学の学費は?
見えない未来への不安が、黒い波のように押し寄せてくる。
「私って、本当にお金の管理ができないダメな主婦だ」
「このままじゃ、家族が路頭に迷うかもしれない」
自己嫌悪とプレッシャーで、夜も眠れなくなってしまった。
「完璧な家計簿」をやめる
「もう、家計簿つけるのやめようかな……」
赤字を見るたびに落ち込むくらいなら、いっそ見ない方がマシなんじゃないか。
夫にそう愚痴をこぼすと、彼は意外なことを言った。
「別に、そんなに完璧に管理しなくていいんじゃない?とりあえず、給料が入ったら先に貯金分だけ別の口座に移せば?」
「先取り貯金」というやつだ。
そんな基本的なこと、頭では知っていたけれど、「残ったお金を貯金に回そう」という甘い考えから抜け出せずにいた。
私は翌日から、家計簿アプリを思い切って削除した。
1円単位で収支を合わせようとするから、ストレスが溜まって無駄遣いにはけ口を求めてしまうんだ。
「ざっくり」がもたらした余裕
代わりに始めたのが、夫の言う通りの「先取り貯金」だった。
給料日、問答無用で数万円を別口座にうつす。
そして、残ったお金を「食費」「日用品」「その他(レジャーや予備費)」の3つの封筒に分けた。
「この封筒の中のお金なら、何に使っても自由」
そう決めたことで、心に不思議な余裕が生まれた。
コンビニでスイーツを買う時も、「その他」の封筒から出す。
「無駄遣いしちゃった」という罪悪感ではなく、「自分へのご褒美」として心から楽しめるようになった。
月末に封筒が空になれば、「あ、今月はもう使えないな」と諦めがつく。
家計簿をつけていた時よりも、なぜかお金の使い方がコントロールできるようになったのだ。
少しずつの積み重ねが自信に
それから半年後。
先取り貯金用の口座には、確実にお金が貯まり始めていた。
まだ「安心できる額」には程遠い。
でも、「少しずつでも貯められている」という事実が、私に自信を与えてくれた。
「できない」と自分を責めるのはやめた。
1円単位の節約や、完璧な家計管理なんて、私には向いていなかっただけだ。
自分の性格に合った「ざっくり管理」を見つけたことで、お金の不安は少しずつ薄れていった。
もし今、家計簿の赤字を見て自己嫌悪に陥っている人がいたら。
完璧を目指さなくていい。
あなたに合った、ストレスのないやり方が必ずあるはずだ。
「できない」自分を責める前に、やり方を変えてみる。
それが、家計の不安から抜け出す第一歩なのだと、私は今ならわかる。