「ごめん、その日ちょっと予定が入ってて……」
LINEの画面を見つめながら、私は嘘をついて送信ボタンを押した。
幼稚園のママ友グループからの、週末のランチ会の誘いだった。
私は、35歳の専業主婦。
5歳の息子が通う幼稚園には、いわゆる「いつメン(いつものメンバー)」のママ友が4人いる。
入園当初は、同じ年齢の子供を持つ母親同士、悩みを共有できる存在ができて本当に嬉しかった。
でも、付き合いが長くなるにつれて、その関係は私にとって「重荷」に変わっていった。
終わらない会話と見えないマウント
ランチ会は、いつも同じファミレスの個室で行われる。
最初は子供の可愛いエピソードや、おすすめの小児科の情報交換で盛り上がる。
でも、時間が経つにつれて、話題は徐々に「他人の噂話」や「見えないマウント」へとシフトしていく。
「〇〇君のところ、また新しい習い事始めたらしいよ。教育熱心だよね〜(ちょっとやりすぎじゃない?というニュアンス)」
「うちの夫、最近仕事が忙しすぎて全然帰ってこないの。お給料はいいんだけどね(高収入アピール)」
私は、誰の悪口も言いたくないし、自分の家庭の事情をペラペラと話すのも好きじゃない。
だから、ひたすら愛想笑いを浮かべて、「へえ、すごいね」「大変だね」と相槌を打つマシーンになるしかなかった。
2時間のランチ会が終わって家に帰ると、どっと疲れが押し寄せて、ソファから動けなくなる。
「私、何のためにあんな集まりに行ってるんだろう」
「嫌われたくない」という呪縛
行きたくないなら、断ればいい。
頭では分かっているのに、それができなかった。
「もし付き合いが悪いと思われて、グループから外されたらどうしよう」
「私がいないところで、今度は私の噂話をされるんじゃないか」
「私がいじめられたら、息子の幼稚園生活にも影響が出るかもしれない」
そんな恐怖心が、私をランチ会へと駆り立てていた。
ママ友は、本当の「友達」じゃない。
「子供」という共通のパスポートを持っているだけで、価値観も生活水準も全く違う人たちの集まりだ。
それなのに、私は「ママ友カースト」から転落することを極端に恐れていた。
勇気を出した「嘘」のその先
冒頭のLINEは、私が初めてランチ会を断った時のものだ。
送信ボタンを押した後、心臓がバクバク鳴っていた。
既読がつくまでの数分間が、永遠のように感じられた。
やがて、グループLINEに返信が来た。
「そっかー、残念!また今度ね!」
「〇〇ちゃん(私)いなくて寂しいけど、楽しんでくるね!」
あっさりとした返信。
スタンプがいくつか続いて、その話題は終わった。
なんだ、これだけか。
私は、拍子抜けすると同時に、肩から重い荷物がドサッと落ちたような気がした。
私が一人欠けたところで、彼女たちのランチ会は何事もなく開催され、そして終わる。
私の存在なんて、その程度のものだったのだ。
それは決して悲しいことではなく、私にとって「最高の救い」だった。
心地よい距離感を見つける
その日を境に、私は少しずつママ友との距離を置くようにした。
ランチ会の誘いは、3回に2回は断る。
幼稚園の送迎では笑顔で挨拶をするけれど、立ち話には長く付き合わず、「夕飯の準備があるから」と切り上げる。
最初は「ノリが悪い」と思われているかもしれないと不安だった。
でも、数ヶ月経っても、息子が仲間外れにされるようなことは一切なかった。
むしろ、ランチ会の呪縛から解放された私の心は、驚くほど軽くなっていた。
ママ友は「戦友」でいい
今でも、そのママ友たちとは「知り合い」として良好な関係を保っている。
ただ、以前のように「すべてを共有しなければいけない」という強迫観念はない。
ママ友は、無理をしてまで「親友」になる必要はないのだ。
困った時に少しだけ情報を交換し合い、子供の成長を適度に喜び合う。
付かず離れずの「戦友」くらいの距離感が、私には一番心地よかった。
もし今、ママ友との付き合いに疲れて、ランチ会の前日にため息をついているお母さんがいたら。
勇気を出して、一度断ってみてほしい。
あなたが思っている以上に、ママ友の世界は「あなたがいないこと」に寛容だ。
自分をすり減らしてまで守らなければいけない関係なんて、この世にはないのだから。