鏡の前に立つのが、本当に怖かった。
産後8ヶ月。
洗面所の明るい照明の下で見た自分の顔は、思わず目を逸らしたくなるほどボロボロだった。
目の下には青黒いクマが居座り、頬はカサカサ。
シミは妊娠前より明らかに濃くなっている。
髪はパサパサで、一つに結んだ毛先が情けなく跳ねていた。
「これ、私なの……?」
夜泣きで細切れにしか眠れない日々。
朝は夫の弁当と朝食を作り、自分の顔はお湯でパシャッと洗うだけ。
化粧水をつける暇すら惜しくて、泣いている娘のもとへ走る。
日中は児童館に行っても、周りの綺麗なママたちと自分を比べては落ち込む。
「なんであの人は、あんなに髪がツヤツヤなんだろう」
「どうしてあんなに肌が明るいの?」
帰宅後も休む暇なんてない。
離乳食の準備、お風呂、寝かしつけ。
ようやく娘が寝付いた頃には、自分も泥のように疲れていて、ソファーでそのまま意識を失うこともしばしばだった。
「私だって、好きでこんな姿でいるわけじゃないのに。」
誰にともなく心の中で叫ぶ。
夫は「子育て大変だよね」と言ってくれるけれど、彼が毎朝鏡の前で丁寧にワックスをつけ、パリッとしたシャツを着て出社していく姿を見ると、無性にイライラした。
彼だけが、妊娠前と何も変わらないように見えた。
私だけが、女としての自分をどんどん削り取られている気がして、たまらなく悲しかった。
スキンケアの「限界」に気づいた日
ある日の夕方。
生後8ヶ月の娘をお風呂から上げ、バスタオルでくるんでリビングへ連れて行った時のこと。
娘の保湿クリームを塗り終え、自分の顔に化粧水をパシャパシャと適当に叩き込もうとした瞬間、鏡に映った自分と目が合った。
ひどく疲れた、老け込んだ顔。
そして、その顔を見て、ふと冷静になった。
「私、いつまでこの『時間がないから仕方ない』って言い訳を続けるんだろう。」
確かに時間はない。
でも、本当に「1分」も自分のために使えないのか?
違った。
私は「完璧にやらなきゃ意味がない」という呪いに縛られていただけだった。
独身時代のように、導入液を塗って、化粧水を重ね付けして、美容液を馴染ませて、クリームで蓋をする。
そんなフルコースのスキンケアをする時間なんて、今の私にあるはずがない。
「できない」自分に絶望して、結局「やらない」というゼロの選択をしてしまっていたのだ。
「もう、やめよう。」
私は、洗面所の棚にずらりと並んでいた、使いかけの大量のスキンケア用品をゴミ袋に放り込んだ。
残したのは、たった一つ。
オールインワンという「お守り」
翌日、私は近所のドラッグストアへ走り、オールインワンジェルを買ってきた。
「化粧水、乳液、美容液、クリーム、パックがこれ一つで。」
パッケージに書かれたその言葉が、今の私には何よりも輝いて見えた。
その日の夜。
お風呂上がりのドタバタの中、私はこれまでの「適当なパシャパシャ」をやめ、オールインワンジェルを手に取った。
手のひらで温めてから、顔全体を優しく包み込むようにプレスする。
たったそれだけ。
時間にして、わずか15秒。
でも、その15秒間だけは、娘の泣き声も、散らかった部屋のことも忘れて、ただ「自分の肌」とだけ向き合った。
「今日も1日、お疲れさま。」
心の中でそう呟きながら、じんわりと肌に潤いが染み込んでいくのを感じた。
不思議なもので、たった15秒、自分のために時間を使っただけで、心がスッと軽くなった。
ボロボロだった私の心に、ほんの少しだけ「余裕」という名の潤いが戻ってきた気がした。
小さな変化が連れてきたもの
それから毎日、私はお風呂上がりに「15秒のオールインワン」を続けた。
朝も、洗顔後にサッと塗るだけ。
肌が劇的に変わったかと言われれば、正直わからない。
シミが消えたわけでも、シワがなくなったわけでもない。
でも、「自分を大切にする時間」を毎日少しでも持てているという事実が、私の内側を確実に変えていった。
児童館で綺麗なママを見ても、以前のように卑屈にならなくなった。
「あの人はあの人のペースがある。私は、今の私のベストを尽くしている。」
そう思えるようになったからだ。
夫の出勤姿を見ても、イライラしなくなった。
彼には彼の、外で戦うための身だしなみが必要なのだと、素直に認められるようになった。
そして何より、鏡を見るのが怖くなくなった。
そこには、相変わらず寝不足のクマを作った自分がいる。
でも、以前のような「疲れ果てた女」ではなく、「毎日を懸命に生きている母親」の顔が映っていた。
「悪くないじゃん。」
鏡の中の自分に、小さく笑いかけた。
産後のスキンケアは、完璧じゃなくていい。
フルコースの時間が取れないなら、潔く手放せばいい。
大切なのは、「どんなアイテムを使うか」ではなく、「ほんの数秒でも、自分のために立ち止まる時間を作れるか」なのだ。
オールインワンジェルは、単なる時短アイテムじゃない。
それは、時間にも心にも余裕がないママたちを救う、小さな「お守り」だ。
もし今、鏡の前でボロボロの自分を見て泣きたくなっているママがいるなら。
全部を完璧にやろうとするのは、もうやめてみないか。
たった一つでいい。
たった15秒でいい。
自分のために、立ち止まる時間を作ってみてほしい。
その小さな変化が、きっとあなたの心に、潤いを取り戻してくれるはずだから。