「ねえ、この段ボール、本当に全部いるの?」
週末の大掃除。
押し入れの奥から出てきた、巨大な段ボール箱の山を指さして、私は夫を問い詰めた。
私は、33歳のパート主婦。
夫と5歳の息子との3人暮らしで、都内の手狭な2LDKマンションに住んでいる。
子供が成長するにつれて、おもちゃや服が増え、収納スペースは常にパンパン。
私は自分の服や靴を定期的に断捨離して、なんとかスペースを確保しようと必死だった。
それなのに、夫は全く違う。
捨てられない夫の「宝物」
夫の趣味は、スニーカーの収集と、古い漫画やゲームソフトのコレクションだ。
段ボールの中には、一度も履いていない限定モデルのスニーカーや、もう本体がないのに「いつかやるかもしれないから」と取ってあるゲームソフトがぎっしり詰まっていた。
「いるよ!それ、プレミアついてるやつもあるんだから!」
夫は慌てて段ボールを私から引き離し、押し入れの奥へと押し戻した。
「でも、もう何年も開けてないじゃない。少しは減らしてよ。息子の幼稚園の作品とか、しまう場所がないんだけど」
「……俺の小遣いで買ったものなんだから、文句言われる筋合いはないだろ」
夫のその一言で、私の頭に血が上った。
「あなたの小遣いで買ったとしても、置いてる場所は『私たちの家』の収納スペースでしょ!なんで私ばっかり我慢して捨てなきゃいけないの!」
休日の穏やかな空気は一変し、私たちはそのまま険悪なムードに突入した。
価値観の押し付け合い
それから数日間、私は怒りが収まらず、夫のコレクションの山を見るたびにイライラしていた。
「なんであんなガラクタ、捨てられないんだろう」
「私の方が絶対に正しいのに」
そう信じて疑わなかった。
ある日、ママ友とのランチでその愚痴をこぼした時のこと。
「あー、うちもそう!旦那の釣り道具、マジで邪魔!」
「うちなんて、でっかいアンプがリビングのど真ん中にあるよ」
ママ友たちは口々に共感してくれた。
でも、その中の一人、いつも穏やかなAちゃんが、ポツリと言った。
「でもさ、旦那さんからしたら、奥さんの推しのグッズとか、使ってない美容家電とかも『ガラクタ』に見えてるかもしれないよね」
その言葉に、私はドキッとした。
確かに、私のクローゼットの奥には、いつか使うと思って取ってある美顔器や、推しのアイドルのDVDが眠っている。
夫はそれらに対して、一度も「捨てろ」と言ったことはなかった。
相手の「大切」を尊重する
家に帰り、改めて夫のコレクションの山を見た。
私から見ればただの古いスニーカーやゲームソフト。
でも、夫にとっては、青春時代の思い出が詰まった「宝物」なのだ。
私は、自分の「スッキリ暮らしたい」という価値観を、夫に押し付けていただけだった。
私が私の宝物を大切にしたいように、夫にも夫の宝物を大切にする権利がある。
その夜、私は夫に謝った。
「この前はごめんね。無理に捨てろって言って」
夫は少し驚いた顔をした後、「俺も意地になってた。ごめん」と頭を掻いた。
「共有スペース」と「個人のスペース」
私たちは、収納についてルールを決めることにした。
・押し入れの下段と、寝室のクローゼットの半分は「夫の完全自由スペース」にする。
・そこに収まる量なら、何を持っていても文句は言わない。
・ただし、それ以外の「共有スペース」には趣味のものを持ち込まない。
このルールを作ってから、お互いのストレスが激減した。
夫は自分のスペースという「城」を手に入れたことで満足し、自分なりにパズルを組み合わせて綺麗に収納するようになった。
(結局、入りきらなくなったいくつかのスニーカーは、自分でフリマアプリで売っていた)
私も、「ここは夫の場所だから」と割り切ることで、箱の山を見てもイライラしなくなった。
家族が心地よく暮らすための収納
家族とはいえ、価値観の違う人間が一緒に暮らすのだ。
「何が大切か」「何を捨てられるか」の基準は、人それぞれ全く違う。
自分の価値観で相手の持ち物をジャッジして、「捨てろ」と強要するのは、相手の心に土足で踏み込むようなものだ。
収納のコツは、「捨てること」だけじゃない。
お互いの「大切にしたいもの」を尊重し合い、それぞれが心地よく暮らせる「境界線」を引くこと。
それが、家族みんなが笑顔で過ごせる、一番の収納術なのだと思う。
もし、かつての私のように、夫の趣味のものにイライラしている人がいたら。
「捨てさせる」のではなく、「場所を決める」ことから始めてみてほしい。
きっと、お互いの心の収納スペースにも、少しだけ余裕ができるはずだから。