「あーあ、また喧嘩してる……」
窓を叩きつける激しい雨音に混じって、リビングから5歳の長男と3歳の次男の大きな泣き声が聞こえてきた。
「僕が先におもちゃ使ってたのに!」
「いやだ! 僕も遊びたい!」
休日の朝。
本当は、朝から家族で大きな公園に行って、思い切り体を動かして遊ばせる予定だった。
でも、天気予報通りの大雨で、予定はすべてキャンセル。
36歳、平日は事務の仕事に追われている私にとって、休日は子供たちと過ごす貴重な時間であり、
同時に「いかに子供たちの体力を削り、夜早く寝かせるか」というミッションを遂行する日でもある。
それなのに、雨のせいで家の中に閉じ込められた二人は、
あり余る体力を発散する場所がなく、朝から些細なことで衝突を繰り返していた。
「もう! 喧嘩するならおもちゃ片付けるよ!」
キッチンから大声で怒鳴るけれど、興奮した二人の耳には届かない。
夫は「仕事の疲れが……」と、寝室にこもったまま起きてこない。
雨の休日は、本当に憂鬱だ。
狭いマンションのリビングで、エネルギーの塊のような男の子二人と丸一日過ごすなんて、
想像しただけでもゲッソリする。
「お昼ご飯、どうしようかな……」
冷蔵庫を開けて、ため息をつく。
外に食べに行くのも、この雨の中、傘を差して二人を連れ出すのは至難の業だ。
結局、いつものように冷凍うどんを温めるしかないのか。
イライラのピークと、長男の涙
午後になっても雨は止まず、子供たちの喧嘩はさらにエスカレートしていった。
おもちゃの奪い合いから、今度はテレビのチャンネル争い。
「僕がウルトラマン見るの!」
「いやだ! 新幹線!」
泣きわめく次男を、長男がドンッと突き飛ばした。
次男が大きな声で泣き出し、私の堪忍袋の緒もついに切れた。
「いい加減にしなさい!!」
私は長男の腕を強く掴み、声を荒げた。
「なんでいつも下の子に意地悪するの! お兄ちゃんでしょ!
雨で外に出られないからって、家の中で暴れないでよ!
お母さんだって、せっかくの休みなのに全然休めなくてイライラしてるの!」
言ってはいけない言葉だったと、口から出た瞬間に後悔した。
でも、止まらなかった。
平日の仕事の疲れ、雨で予定が狂ったストレス、夫への不満。
そのすべてを、まだ5歳の長男にぶつけてしまったのだ。
長男は、私の怒鳴り声にビクッと肩をすくめ、
大粒の涙をポロポロとこぼしながら、小さな声で言った。
「ごめんなさい……お母さん、怒らないで……」
その言葉と、長男の怯えたような表情を見た瞬間、
私はハッとして、腕を掴んでいた手を離した。
「ごめん、お母さんが悪かった。大きな声出して、ごめんね」
私は長男を抱きしめ、自分の感情をコントロールできなかった不甲斐なさに、
私自身もポロポロと泣いてしまった。
長男だって、外で思い切り遊びたかったはずだ。
雨で退屈で、どうしようもなくて、つい弟に当たってしまっただけなのに。
私は、自分のイライラを子供に責任転嫁していただけだった。
雨の日を「特別な日」に変える魔法
その日の夕方。
まだ雨は降り続いていたけれど、私は気持ちを切り替えることにした。
「よし! 今から、おうちの中でピクニックしよう!」
私はリビングの床に大きなレジャーシートを広げた。
「え? おうちでピクニック?」
子供たちは、目を丸くして不思議そうな顔をした。
「そう! いつもはテーブルで食べるけど、今日は特別にシートの上で夜ご飯を食べよう!」
私は、お昼に作ろうと思っていた冷凍うどんをやめて、
子供たちと一緒に、小さなおにぎりと唐揚げ、卵焼きを作った。
もちろん、形は不格好だし、キッチンは粉だらけになったけれど、
「僕がおにぎり握る!」「僕は卵混ぜる!」と、子供たちは大喜びで手伝ってくれた。
そして、リビングの電気を消して、キャンプ用の小さなランタンを灯した。
薄暗い中で、シートの上に並べたおにぎりをほおばる。
「わあ、なんかワクワクするね!」
「おにぎり、おいしい!」
さっきまで取っ組み合いの喧嘩をしていた二人が、
満面の笑みでランタンの光を囲んでいる。
「雨で公園に行けなくて残念だったけど、おうちピクニックも楽しいね」
私がそう言うと、長男は大きく頷いた。
「うん! また雨の日に、おうちピクニックやりたい!」
その言葉を聞いて、私は心の底からホッとした。
雨の日のお出かけは、確かに憂鬱だ。
予定が狂うし、家の中で子供たちは退屈して喧嘩ばかりするし、
親のストレスも限界に達しやすい。
でも、少しだけ発想を転換すれば、
雨の日は「家の中で特別な体験ができる日」に変えることができるのだと気づいた。
もちろん、毎回こんな風に手の込んだ「おうちピクニック」ができるわけじゃない。
時には、テレビやゲームに頼り切って、1日中ダラダラ過ごす日があってもいい。
「完璧な休日」を追い求める必要なんて、どこにもないのだ。
子供たちが笑顔で、親も無理せず笑っていられること。
それが、どんな天気の日でも、一番大切な「休日の過ごし方」なんだと、
私はあの大雨の日に、子供たちの笑顔から教わった。