「投資とか、絶対やめた方がいいよ。損するだけだって」
夕食後、テレビで『新NISA特集』を見ていた夫が、ビールを飲みながらそう吐き捨てた。
私も「だよねー」と適当に相槌を打つ。
私は35歳。都内で共働きをしていて、4歳の娘がいる。
最近、SNSを開けば「つみたてNISAで資産運用!」「投資信託で老後資金を増やす!」という投稿ばかりが目に入る。
ママ友とのランチでも、「NISAやってる?」という話題が出ることが増えた。
「みんなやってるみたいだし、うちも始めた方がいいのかな……」
そんな焦りはあった。
でも、私にとって「投資」という言葉は、果てしなく「怖い」ものだった。
「怖い」の正体は「知らない」こと
私の中での投資のイメージは、ドラマや映画で見る「株の暴落で全財産を失い、借金を抱える人」だった。
赤や緑の数字がチカチカと動く画面を睨みつけ、一瞬の判断ミスで何百万も損をする。
そんなギャンブルみたいなこと、大事な家族の貯金でできるわけがない。
それに、私は「知識ゼロ」だ。
「インデックス」とか「利回り」とか、専門用語を聞くだけで頭が痛くなる。
銀行の窓口で勧められるがままに契約して、高い手数料を取られて損をしたという話も聞いたことがある。
「素人が手を出したら、カモにされるだけだ」
そう自分に言い聞かせて、私は「貯金しか勝たん」と、毎月コツコツと普通預金にお金を移すだけの生活を続けていた。
でもある日、娘の教育費について調べていた時のこと。
現在の銀行の金利は0.001%程度。
100万円を1年間預けても、増えるのはたったの10円。
その一方で、物価はどんどん上がっていく。
「あれ?これって、貯金してるだけだと、実質的にお金が減ってるってことなんじゃ……」
その事実に気づいた時、背筋がゾッとした。
「投資をしないリスク」の方が、実は怖いんじゃないか?
「ほったらかし」という魔法の言葉
「投資 知識ゼロ 始め方」
私は、震える手でスマホにそう打ち込んだ。
出てきた記事を読んで、私の「投資=ギャンブル」というイメージは少しずつ崩れていった。
私が恐れていたのは「個別株の短期売買」であって、国が推奨している「つみたてNISA」を使ったインデックス投資は、全く別物だということが分かったのだ。
・世界中のいろんな会社に少しずつ分散して投資するから、一つの会社が倒産してもダメージが少ない。
・毎月決まった額を自動で買い続けるから、買うタイミングに悩まなくていい。
・長期間(15年以上)続けることで、損をする確率がグッと下がる。
そして何より、私を惹きつけたのは「ほったらかしでいい」という言葉だった。
毎晩、赤や緑の数字を睨みつける必要なんてない。
最初に設定だけしてしまえば、あとは10年、20年と放置しておくだけ。
「これなら、私にもできるかもしれない」
最初の一歩を踏み出す勇気
その週末、私は夫に「月に1万円だけ、つみたてNISAを始めてみたい」と相談した。
夫は渋い顔をしたけれど、私が調べた「分散投資」や「長期投資」のメリットを説明すると、「まあ、1万円なら最悪なくなっても勉強代と思えるか」と渋々了承してくれた。
証券口座の開設は、スマホで10分ほどで終わった。
マイナンバーカードの写真を撮ってアップロードし、いくつかの質問に答えるだけ。
銀行の窓口に行く必要も、難しい専門用語で説明されることもなかった。
「え、これだけ?」と拍子抜けした。
そして翌月、私の口座から初めての「1万円」が引き落とされ、投資信託が買われた。
最初の数日は、気になって毎日スマホで運用成績をチェックしてしまった。
数十円増えては喜び、数百円減っては「やっぱりやめようかな」と不安になる。
でも、半年が過ぎる頃には、私は自分が投資をしていることすら忘れるようになっていた。
「お金に働いてもらう」という安心感
投資を始めてから2年が経つ。
現在、私の証券口座には、毎月コツコツ積み立てた元本に加えて、数万円の「利益」が出ている。
もちろん、この先もずっと増え続けるとは限らない。暴落して元本割れする時期もあるだろう。
でも、私はもう「怖い」とは思っていない。
長期的に見れば、世界経済は成長を続けるという歴史的なデータを知ったからだ。
そして、「暴落した時は、同じ1万円でたくさんの量が買えるからラッキー」と思えるだけの知識がついたからだ。
「怖い」の正体は、ただ「知らない」ことだった。
今、私の横では夫がスマホで証券口座の画面を見ながら、「俺もボーナス出たらNISAの枠増やそうかな」と笑っている。
あんなに「投資は絶対やめとけ」と言っていた夫が、だ。
もし今、「投資は怖い」「知識がないから無理」と、最初の一歩を踏み出せずにいる人がいるなら。
まずは、月々100円や1000円という、無くなっても笑って済ませられる額から始めてみてほしい。
口座を開設して、自動引き落としの設定をする。
そこまでできれば、あとは「ほったらかし」という魔法が、時間を味方につけてお金を育ててくれる。
投資は、限られたお金持ちや、特別な知識を持った人だけのものじゃない。
私たちのような、毎日を一生懸命に生きる普通の人こそ、味方につけるべき最強のツールなのだ。
勇気を出して踏み出したその小さな一歩が、きっと10年後、20年後のあなたに、大きな安心感というプレゼントを届けてくれるはずだから。