「……なんか、変」
休日の朝、鏡の前で私は立ち尽くしていた。
娘の2歳の誕生日で、家族で少し良いレストランに行くことになった日。
「久しぶりにおしゃれをしよう」と張り切ってクローゼットを開けたのに、何を着てもしっくりこない。
独身時代に気に入っていた花柄のワンピースを着てみると、なんだか「若作りしているおばさん」に見える。
無難な白のブラウスとデニムを合わせてみても、ただの「疲れた主婦」にしか見えない。
私は33歳。産後2年が経つ。
体重は妊娠前に戻ったはずなのに、体型そのものが変わってしまった。
胸の位置は下がり、腰回りにはどっしりとした肉がつき、背中は丸く厚みを増している。
「どれを着ても、全部似合わない……」
結局、私はいつも通りの「ゆったりしたチュニック」と「ゴムの黒いパンツ」という、体型を隠すだけの服を選んで家を出た。
レストランのトイレで鏡を見るたび、自分のくすんだ姿にため息が出た。
隣の洗面台でリップを直している、綺麗に服を着こなした同年代の女性を見るのが辛かった。
私は、完全に「ファッション迷子」になっていた。
「ママなんだから」という呪い
産後のファッション迷子に拍車をかけていたのは、「母親らしい服装をしなければ」という謎の呪縛だった。
子供と公園に行くから、汚れてもいい服。
抱っこするから、ヒールはNG。
動きやすいように、パンツスタイル。
その結果、私のクローゼットは「黒・紺・グレーのトップス」と「ストレッチの効いたパンツ」ばかりになってしまった。
どれも「機能性」と「無難さ」だけで選んだ服だ。
「私が着ていてテンションが上がるか」なんていう基準は、完全に消え去っていた。
ある日、友人とランチに行くために、少しだけ春らしいピンクのニットを買おうとしたことがあった。
でも、鏡の前で合わせた瞬間、「こんな明るい色、ママの私が着たら浮くかな」「汚されたらショックだし」と考えてしまい、結局また黒いニットをレジに持っていった。
「私、いつまでこんな地味な服を着続けるんだろう」
家に帰り、似たような黒いニットが何枚も並んだクローゼットを見つめながら、私はひどく虚無感に襲われた。
「今の自分」を認めることから始める
そんな私がファッション迷子から抜け出すきっかけになったのは、ある休日の「断捨離」だった。
「もう、着ない服は全部捨てよう」
そう決意して、クローゼットの中の服をすべてベッドの上に出した。
そこで気づいたのは、私が「過去の自分」に執着しすぎているという事実だった。
「痩せたら着る」と取っておいた、独身時代の細身のスカート。
「いつかまた着るかも」と残していた、膝丈のワンピース。
これらがクローゼットを占領しているせいで、「今の私」に似合う服が入るスペースがなかったのだ。
私は、過去の栄光をまとった服たちを、思い切ってすべてゴミ袋に入れた。
そして、「今の体型」と「今のライフスタイル」に合う服だけを、ゼロから探し直すことにした。
「テンション」を基準に服を選ぶ
私は、ファッション雑誌を読むのをやめ、Instagramで「骨格診断」と「パーソナルカラー」の投稿を読み漁った。
自分が「骨格ストレート」で、肉感を拾わないハリのある素材が似合うこと。
「イエベ秋」で、温かみのあるブラウンやカーキが得意なこと。
これを知っただけで、服選びの基準が劇的にクリアになった。
数日後、私は一人で買い物に出かけた。
目指したのは、「無難な服」ではなく「今の自分が綺麗に見える服」だ。
選んだのは、骨格ストレートの体型をすっきりと見せてくれる、Vネックのハリ感のあるブラウス。
色は、イエベ秋の私の肌を明るく見せてくれる、テラコッタオレンジ。
「ママだから」とか「汚れるから」という理由は、一度忘れた。
ただ純粋に、「これを着て出かけたい」と思えるかどうかだけで選んだ。
試着室の鏡に映った私は、驚くほどスッキリとして、生き生きして見えた。
「あ、私、まだこんな風に着こなせるんだ」
その瞬間、心の中に溜まっていたモヤモヤが、すーっと晴れていくのを感じた。
服が変われば、心も変わる
そのテラコッタオレンジのブラウスを着て、家族で出かけた日のこと。
夫が「その服、似合ってるね。顔色が明るく見えるよ」と言ってくれた。
娘も「ママ、可愛い!」と抱きついてきた。
もちろん、公園に行けば砂で汚れるし、抱っこ紐をつければシワになる。
でも、自分が心から気に入って選んだ服だから、汚れても「また洗えばいいや」と不思議と笑って許せた。
産後の体型変化は、誰にでも起こる。
それに抗って「昔の服」を無理に着ようとすると、鏡の前で絶望することになる。
大切なのは、変わってしまった体型を嘆くことではなく、「今の体型を一番綺麗に見せてくれる服」に出会うことだ。
もし今、クローゼットの前で「何を着ても変」とため息をついているママがいるなら。
「ママだから無難な服を」という呪縛を、一度捨ててみてほしい。
そして、今のあなたを輝かせる色と形を探しに行こう。
服は、ただの布じゃない。
自分に自信を取り戻し、毎日を少しだけ前向きに生きるための、最強の「鎧」なのだから。