「今日の夜ご飯、どうしよう……」
お昼休みの終わりに時計を見た瞬間、毎日決まってこの重苦しい問いが頭をよぎる。
私は34歳。フルタイムで働きながら、小学生の娘と保育園児の息子の二人を育てている。
夕方、仕事を終えて保育園へダッシュし、帰宅するのは18時半。
そこから、腹を空かせて泣き叫ぶ子供たちをなだめながら、急いで夕食の準備をする。
冷蔵庫を開けて、あるもので何とか形にする。
毎日の献立を考えるのは、本当にしんどい。
「もっと要領よくできないのかな」
そんな時、SNSで「週末の作り置きで平日をラクに!」という投稿を見つけた。
色とりどりのおかずが、綺麗にタッパーに並べられた写真。
『これさえあれば、平日は温めるだけ!』という魔法のような言葉に、私は飛びついた。
「よし、今週末から作り置きに挑戦しよう!」
休日のキッチンが戦場に
初めての作り置きに挑戦した土曜日の午後。
午前中にスーパーへ行き、山のように食材を買い込んだ。
レシピ本を片手に、キッチンに立つ。
・ほうれん草のナムル
・きんぴらごぼう
・鶏肉のトマト煮込み
・豚肉の生姜焼き
・ひじきの炒め煮
メニューは完璧だ。
でも、実際に作り始めると、現実は甘くなかった。
子供たちが「ママ遊ぼう!」と足元にまとわりついてくる。
その度に火を止め、手を洗い、相手をする。
食材を切って、茹でて、炒めて、味付けをして、冷まして、タッパーに詰める。
その工程の多さに、気づけば3時間が経過していた。
やっとの思いで完成した5品のおかずを冷蔵庫にしまい、ふとシンクに目をやると、そこには山積みの洗い物が待っていた。
「……疲れた」
本来なら、子供たちと公園に行ったり、少しだけ昼寝をしたりできるはずの休日の午後が、すべて料理と片付けに消えてしまった。
「作り置き」の挫折
苦労して作ったおかずたち。
でも、月曜日になり、いざ食卓に出してみると、予想外の反応が待っていた。
「えー、またこれ?」
「冷たいお肉、硬くて美味しくない」
子供たちは、電子レンジで温め直した作り置きのおかずに、明らかにテンションが下がっていた。
さらに、水曜日の夜には致命的なことが起きた。
「あれ、このきんぴら、なんか酸っぱいニオイがする……」
冷蔵庫の奥に追いやられていたきんぴらごぼうが、傷みかけていたのだ。
泣く泣くゴミ箱に捨てた時、私の中で何かがポキッと折れた。
「何のために、休みの日にあんなに頑張ったんだろう」
平日の夕食作りをラクにするために始めた「作り置き」は、休日の貴重な時間を奪い、結局「残さず食べなきゃ」というプレッシャーと、食材を無駄にしたという自己嫌悪だけを残して、わずか数週間で挫折した。
「半調理」という新しい選択肢
「私には、作り置きは向いていない」
そう認めた私は、料理上手な先輩ママに相談してみた。
すると彼女は、笑いながらこう言った。
「私も作り置きは挫折したよ。だって、週末の時間がもったいないし、出来立ての方が美味しいもん。今は『半調理』しかしてないよ」
半調理?
先輩ママが教えてくれたのは、「週末に完成品を作る」のではなく、「平日の調理を少しだけ楽にする下準備」をしておく方法だった。
例えば、
・買ってきたお肉は、下味(醤油や塩麹)をつけて冷凍しておく。
・野菜(玉ねぎやきのこ)は、使いやすい大きさに切って、ジップロックに入れて冷凍しておく。
・ブロッコリーだけは、塩茹でしておく。
たったこれだけ。
これなら、休日の買い物から帰ってきた後、15分もあれば終わる。
平日のキッチンに笑顔が戻った
早速、次の週末から「半調理」を取り入れてみた。
月曜日の夕方。
帰宅してすぐ、冷凍庫から「下味冷凍しておいた鶏肉」を取り出し、フライパンに放り込む。
そこに「切って冷凍しておいた玉ねぎ」を加え、蓋をして蒸し焼きにする。
その間に、塩茹でしておいたブロッコリーを添えて、お味噌汁を作る。
「……え、もうできたの?」
調理時間は、わずか15分。
しかも、作り置きを温め直したものではなく、フライパンからそのまま出した「出来立て熱々」のおかずだ。
「わあ、いい匂い!お肉柔らかくて美味しい!」
子供たちは、作り置きの時とは打って変わって、パクパクとご飯を食べてくれた。
「作り置き」に挫折した時、私は「自分は要領が悪いダメな母親だ」とひどく落ち込んだ。
でも違った。
ただ、「私のライフスタイルと性格に合っていなかった」だけなのだ。
完璧なタッパーが並んだ冷蔵庫じゃなくてもいい。
休日の午後をキッチンで過ごす代わりに、子供たちと公園で泥だらけになって遊ぶ方が、私にはずっと合っていた。
もし今、休日のキッチンでため息をつきながら「作り置き」に追われているママがいるなら。
「週末に全部作る」というプレッシャーを、一度手放してみてほしい。
玉ねぎを一つ切って冷凍しておくだけで、平日のあなたは確実に救われる。
完璧じゃなくていい。
「半調理」という少しの工夫で、夕方のキッチンに、きっと笑顔が戻ってくるはずだから。