娘が年中に上がった春、私は毎朝の送り迎えが憂うつだった。
原因は、同じクラスのママ友グループ。特にリーダー格の「サチコさん」だった。
始まりは何気ない会話だった
「ユカちゃんのところ、習い事なにしてる?」
ある朝、サチコさんにそう聞かれた。うちは特に何もしていなかったから、正直に「まだ何も」と答えた。
すると、サチコさんはにっこり笑って言った。
「うちはピアノと英語とスイミング。やっぱり早いうちからやらせないと差がつくよね。」
悪気はないのかもしれない。でも、その一言が胸にズシンときた。
帰り道、自転車を漕ぎながら「うちは遅れてるのかな」とぐるぐる考えた。娘は楽しそうに鼻歌を歌っていたのに、私の頭の中はモヤモヤでいっぱいだった。
エスカレートするマウント
それからというもの、サチコさんの「さりげないマウント」は止まらなかった。
「うちの子、もうひらがな全部読めるの。」
「旅行はいつもハワイ。子どもの英語力が違うから。」
「パパが教育熱心だと助かるよね。」
言葉のひとつひとつは、たぶん本人にとっては日常の雑談。でも聞いているこちらは、毎回じわじわと削られていく。
一番きつかったのは、お迎えの待ち時間に他のママたちの前で言われたこと。
「ユカちゃんのところはのびのび系だもんね。それはそれでいいと思うよ。」
フォローのつもりだったのかもしれない。でもあの「それはそれで」の響きが、いまでも耳に残っている。
夜、布団の中で泣いた
その夜、娘を寝かしつけた後、布団の中で声を殺して泣いた。
悔しいのか、情けないのか、自分でもわからなかった。ただ、「私、なんでこんなに振り回されてるんだろう」と思った。
夫に話しても「気にしすぎだよ」と言われるだけで、余計にしんどかった。
転機は別のママの一言
ある日、同じクラスの「ナツミさん」と帰り道が一緒になった。ナツミさんは普段あまりグループに入らない人で、いつも静かに笑っている印象だった。
思い切って「サチコさんの話、ちょっとしんどい時がある」とこぼしてみた。
ナツミさんは少し笑って、こう言った。
「わかる。でもね、私はあの人の話、天気予報だと思って聞いてる。ふーん、今日は晴れかー、くらいの感覚で。」
その言葉に、肩の力がふっと抜けた。
「全部真剣に受け止めなくていいんだ。」
そう思えた瞬間、胸のモヤモヤが少しだけ軽くなった。
私が見つけた距離感の取り方
それから私は、少しずつ自分なりのルールを作っていった。
会話は3往復まで
マウント気味の話題が始まったら、3回くらい相槌を打って「すごいね」で切り上げる。深入りしない。追加の質問をしない。それだけで、ダメージがぐっと減った。
物理的に距離を置く
お迎えの時間を少しだけずらした。5分早く行くか、5分遅く行くか。それだけでサチコさんグループと顔を合わせる頻度が減った。避けているわけじゃない。自分の心を守る工夫だと思うことにした。
比較のスイッチを切る
一番大事だったのはこれ。サチコさんの話を聞くたびに「うちは」「うちの子は」と比べてしまう自分に気づいた。
でも、娘は毎日笑っている。お絵かきに夢中になって、「ママ見て」と目を輝かせてくれる。その姿を見て、「この子のペースでいい」と心から思えるようになった。
距離を取っても関係は壊れなかった
距離を置いたことで、サチコさんとの関係が悪くなるかもと不安だった。
でも実際は、何も変わらなかった。会えば普通に挨拶するし、行事の時は協力し合う。ただ、必要以上にべったりしなくなっただけ。
それで十分だった。
ママ友って、友達とは違う。子どもを通じたつながりだからこそ、無理に仲良くしなくていい。必要な時に、必要なだけ関われればいい。
あの頃の私みたいに、ママ友のマウントで夜眠れない人がいたら伝えたい。
全部真に受けなくていい。少し距離を取るだけで、驚くほど楽になる。そして、あなたの子育ては何も間違っていない。