中学生の息子の反抗期に疲れ果てた私が、「母親」の役割を少しだけ手放した理由

「ねえ、今日のご飯何?」

夕方、仕事から帰ってきてキッチンに立っていた私に、
リビングのソファでスマホをいじりながら、中学2年生の息子がぶっきらぼうに聞いてきた。

「今日はハンバーグだよ」と答えると、
「ふーん。俺、肉の気分じゃないから」と冷たく言い放ち、
自分の部屋にドカッと入り、バタン! と大きな音を立ててドアを閉めた。

その瞬間、私の中で張り詰めていた糸がプツンと切れた。

「ちょっと! なんでそんな言い方するのよ!」

思わず部屋のドアを叩いて怒鳴ってしまったけれど、
中からは「うるせえな!」という声と、音楽のボリュームが上がる音だけが返ってきた。

私はキッチンに戻り、作りかけのハンバーグのタネを見つめながら、
声を出さずに泣いた。

40歳の私は、フルタイムで働きながら、中2の息子と小5の娘を育てている。
息子が小学生の頃は、あんなに素直で「お母さん、お母さん」と甘えてきてくれたのに。
中学生になった途端、まるで別人のように変わってしまった。

挨拶をしても無視されるのは当たり前。
話しかけても「うざい」「別に」「知らない」の3パターンしか返ってこない。
一緒に買い物に行くなんて論外で、家族での外食すら嫌がるようになった。

いわゆる「反抗期」だということは頭ではわかっている。
成長の証だし、いつかは終わるものだともわかっている。

でも、毎日毎日、冷たい態度をとられ、暴言を吐かれ、
自分の存在を否定されているような扱いを受けると、
母親としての自信も、愛情すらも削り取られていくような気がして、本当に疲れてしまっていた。

「母親だから」という呪縛と、夫の無関心

私が一番苦しかったのは、この悩みを誰にもわかってもらえなかったことだ。

夫に相談しても、
「男の子なんてそんなもんだろ。俺もその頃は親に反抗してたし」
と、軽く笑い飛ばされるだけ。
「お前が口うるさく言いすぎるから反抗するんじゃないの?」と、
逆に私を責めるようなことすら言われた。

夫は仕事が忙しく、平日は夜遅くまで帰ってこない。
休日は自分の趣味であるゴルフや釣りに出かけてしまう。
息子と顔を合わせる時間が少ない夫には、私が毎日どれだけ息子の態度に傷つき、
神経をすり減らしているか、到底理解できないのだ。

ママ友に相談しようと思っても、
「うちの子も最近口答えが多くて〜」という程度の愚痴は言えても、
「息子が本当に憎らしく思える時がある」「もう母親をやめたい」
なんていう本音は、怖くて絶対に言えなかった。
「ひどい母親だ」と軽蔑されるのが目に見えていたからだ。

誰にも頼れず、理解してもらえず、
私は「母親だから、どんなに傷つけられても子供を愛し、耐えなければならない」
という呪縛に、一人でぐるぐるとがんじがらめになっていた。

ある日、些細なことで息子と大喧嘩になった。
私が息子の部屋に入って、脱ぎ散らかされた服を片付けようとしたのが原因だった。

「勝手に俺の部屋に入るなよ! うざいんだよ!」
「誰が片付けてると思ってるの! いい加減にしなさいよ!」

お互いにヒートアップし、息子は私の持っていた洗濯カゴを蹴り飛ばした。

「もうあんたなんか、どうなっても知らない!」

私は泣き叫び、そのまま家を飛び出した。
行く当てもなく、近所の公園のベンチに座り込み、ただただ涙を流した。

もう限界だ。
なんで私ばかりがこんな思いをしなきゃいけないの。
私はただ、家族で楽しく笑い合って過ごしたいだけなのに。

「諦める」ことで見えてきた新しい距離感

公園で泣き疲れた後、私はふと、あることに気づいた。

私はずっと、息子を「昔の素直で可愛い息子」に戻そうとしていた。
私の言うことを聞き、私を慕ってくれる息子でいてほしかった。

でも、もう彼は「私の言うことを聞く子供」ではないのだ。
一人の独立した人間になろうとして、もがいている最中なのだ。

私が無理にコントロールしようとすればするほど、
彼は反発し、殻に閉じこもってしまう。

「もう、無理に仲良くしようとするのはやめよう」

私は、ある意味で息子に対する「期待」を手放すことにした。

家に帰り、私は夫に宣言した。
「私、もう息子のことには必要以上に干渉しない。部屋の片付けも、勉強のことも、本人が困るまで手を出さない」

夫は驚いた顔をしていたけれど、私の真剣な様子に何かを感じ取ったのか、
「わかった」とだけ短く答えた。

「何もしない」という愛情の形

それから、私は本当に息子に対する接し方を変えた。

朝、「おはよう」と声をかけて無視されても、それ以上は何も言わない。
部屋が散らかっていても、ドアを閉めて見ないふりをする。
テストの点数が悪くても、「どうするの?」と問い詰めない。

食事の用意や洗濯などの「最低限の世話」だけは淡々とこなし、
あとは徹底的に「放っておく」ことにした。

最初は、口を出したくてウズウズして、ものすごくストレスが溜まった。
でも、「これは私が私を守るため、そして息子を自立させるための修行だ」と自分に言い聞かせ、
ぐっと我慢した。

すると、不思議な変化が起き始めた。

私が口うるさく言わなくなったことで、
家の中のピリピリとした空気が、少しずつ和らいでいったのだ。

息子も、私が怒らなくなったことに拍子抜けしたのか、
以前のような攻撃的な態度は減っていった。

ある日の夕食後、私がシンクで食器を洗っていると、
息子がふらりとキッチンにやってきた。

「……これ、洗っとくわ」

そう言って、息子は自分が使ったコップをスポンジで洗い始めた。

私は驚きを隠しきれず、「え? あ、ありがとう」とだけ返した。

たったそれだけのこと。
でも、私にとっては、長いトンネルの中に差し込んだ、一筋の光のように感じられた。

反抗期は、まだ終わっていない。
これからも、理不尽な態度にイライラさせられることはきっとあるだろう。

でも、私はもう、以前のように一人で思い詰めることはないと思う。
「母親だから」と全てを抱え込む必要はない。
時には「何もしない」という距離感が、お互いの心を守り、
新しい関係性を築くための第一歩になるのだと、今は信じている。

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