「え、Aくん、まだおむつ取れてないの? うちの娘なんて、1歳の時にはもう完全にパンツだったのに。やっぱり男の子って成長遅いのかな〜?」
公園のベンチで、笑顔でそんな言葉を投げかけてくるママ友のBさん。
私は、引きつりそうになる顔を必死で笑顔に保ちながら、「そうなんですね、すごいですね」とだけ答えた。
35歳、都内で専業主婦をしている私には、3歳になる息子がいる。
子育ては毎日が手探りで、不安と疲れの連続だ。
そんな中で、近所の公園で顔を合わせるようになった同年代のママ友たちとの交流は、
最初は孤独な育児の「オアシス」になると思っていた。
でも、現実は違った。
Bさんは、何かにつけて「うちの子のほうが優秀」「うちの家庭のほうが恵まれている」という
見えないマウントを取ってくる人だった。
「この前、旦那がハワイ旅行プレゼントしてくれて〜。Aくんのところは、今年の夏休みどこ行くの?」
「うちの娘、もう英語の歌歌えるんだよね。やっぱり早いうちから知育って大事だよね」
会話の端々に散りばめられた、巧妙な自慢話。
そして、さりげなくこちらを下に見てくるような発言。
最初は「すごいですね」「うらやましいです」と愛想よく相槌を打っていた私だったけれど、
家に帰るたびに、どっと押し寄せる疲労感と、言いようのないモヤモヤに襲われるようになった。
「私の子育て、間違ってるのかな」
「もっといろいろやってあげなきゃダメなのかな」
Bさんの言葉に振り回され、息子と自分のペースを見失いかけていた。
公園に行くのが億劫になり、Bさんの姿を見つけると、無意識に心拍数が上がるようになってしまった。
限界を感じた日と、ある決断
そんなある日、児童館で開かれたイベントでのこと。
Bさんは周りに他のママたちがいる中で、大きな声で私にこう言った。
「Aくん、言葉もまだあんまり出てないよね? うちの娘はもう3語文しゃべるのに。一度、専門のところに相談行ったほうがいいんじゃない?」
周りのママたちが、チラリとこちらを見た。
その瞬間、私の中で何かが冷たく冷え切っていくのを感じた。
心配を装った、悪意のある言葉。
息子の成長を、みんなの前で否定されたような気がして、悔しくてたまらなかった。
でも、言い返す言葉も見つからず、私はただ俯くことしかできなかった。
その日の夜。
寝顔を見せながらスヤスヤと眠る息子を見つめながら、私はついに決断した。
「もう、無理して付き合うのはやめよう」
これまで、同じ地域に住んでいて、同じ年頃の子供がいるからという理由だけで、
「仲良くしなきゃいけない」と思い込んでいた。
波風を立てないように、嫌われないように、必死で気を遣っていた。
でも、そのせいで私が精神的にすり減って、息子の前で笑顔でいられなくなるなら、
そんな関係に何の意味があるのだろう。
私は、Bさんに対して「無視」——正確に言えば、「徹底的なスルー」を実行することに決めた。
「無視」ではなく「スルー力」を身につける
翌日から、私の行動は明確になった。
公園でBさんを見かけても、以前のように自分から駆け寄って挨拶するのはやめた。
目が合えば軽く会釈だけして、すぐに息子の方へ向き直る。
Bさんが近づいてきてマウント発言を始めても、
「へえ」「そうなんですね」と、感情を一切乗せない、ただの「音」として返すようにした。
「うちの娘、また新しい習い事始めたんだ〜」
「へえ」
「Aくん、まだそれできないの?」
「そうなんですね」
これまでは「すごいですね!」「うらやましい!」と全力でリアクションしていたからこそ、
Bさんも気を良くしてマウントを重ねていたのだと思う。
でも、私が「暖簾に腕押し」状態になると、
彼女も面白くなくなったのか、少しずつ私に話しかけてくる回数が減っていった。
もちろん、最初は罪悪感もあった。
「冷たい態度をとってしまっているかな」「他のママたちから孤立しないかな」と不安になることもあった。
でも、驚くことに、私がBさんと距離を置き始めると、
他のママたちの中にも、「実は私もBさんの発言に疲れていた」とこっそり打ち明けてくれる人が現れたのだ。
無理して合わせる必要なんて、最初からなかったのだ。
ママ友関係から解放されて手に入れたもの
Bさんとの物理的、心理的な距離をとるようになってから、
私の日常は驚くほど穏やかになった。
公園に行くのが苦痛ではなくなり、純粋に息子と遊ぶ時間を楽しめるようになった。
誰かと比べて焦ることもなくなり、「AくんはAくんのペースで大きくなればいい」と、
心から思えるようになった。
ママ友という関係は、特殊だ。
「子供」という共通点だけで結びついているからこそ、
価値観や生活水準の違いが浮き彫りになりやすい。
だからこそ、「合わない」と感じた人とは、そっと距離を置く勇気が必要なのだと思う。
マウントを取ってくる相手を変えることはできない。
でも、その言葉を「受け取らない」という選択は、自分次第でいくらでもできる。
「へえ」「そうなんですね」
たったこの二つの言葉が、私を不要なストレスから守る最強の盾になった。
もし今、同じようにママ友の言葉に疲弊している人がいるなら、
勇気を出して、感情のスイッチをオフにする「徹底的なスルー」を試してみてほしい。
あなたの心と、子供との大切な時間を守れるのは、あなた自身なのだから。