2歳半の息子の言葉が遅くて周りと比較して焦っていた私が救われた一言

公園の砂場で、隣にいた同じくらいの年齢の男の子が、突然はっきりと喋り出した。

「ママー、これ、おおきいねえ!もっと、おみず、いれて!」

その声が耳に入った瞬間、私の手はピタッと止まった。

隣で無心に砂を掘っている私の息子は、もうすぐ2歳半。
口から出る言葉といえば、「あー」とか「ん!」とか。
かろうじて「まんま」と「ぶーぶ」くらい。

二語文なんて、夢のまた夢。

同じくらいの月齢のはずなのに、どうしてあんなに喋れるんだろう。
あのママは、どんな特別な教育をしているんだろう。
いや、私が絵本を読んであげる回数が少ないから?
私が、たくさん話しかけてあげてないから?

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛くなった。

逃げるように公園を後にして、息子を自転車の後ろに乗せる。
帰り道、息子の後頭部を見つめながら、ため息が止まらなかった。

検索魔になる毎晩

その日から、夜な夜なスマホの画面に釘付けになる日々が始まった。

「2歳半 言葉遅い」
「言葉の発達 違い」
「自閉症 サイン」

検索窓に打ち込む言葉は、どんどんネガティブなものになっていく。
出てくる体験談や専門家のコラムを読めば読むほど、不安は雪だるま式に膨れ上がった。

「男の子は遅いっていうけど、さすがに遅すぎない?」
「もし、何か障害があったらどうしよう」
「私の育て方が間違っていたのかな」

不安で押しつぶされそうになりながら、夫に相談してみた。
でも、返ってくる答えはいつも同じ。

「考えすぎだよ」
「そのうち喋るって」
「男の子はそんなもんでしょ」

夫の楽観的な言葉が、逆に私を追い詰めた。
私ひとりが焦って、私ひとりが空回りしているみたいで。

「何もわかってないくせに!」

夫に八つ当たりして、自己嫌悪に陥る。
言葉の遅い息子を見ると、可愛いと思う気持ちよりも、「どうして喋らないの」という焦りが勝ってしまう。
そんな自分が、母親失格に思えて涙が出た。

児童館で救われた一言

ある日、逃げ場を求めるように、少し遠くの児童館へ行った。
そこなら、いつもの顔見知りのママたちがいなくて、誰かと比べずに済むと思ったから。

息子は、相変わらず無言でプラレールを繋げている。
私は、部屋の隅で体育座りをしながら、ぼんやりとそれを見ていた。

「プラレール、上手だねえ」

声をかけてきたのは、ベテランの保育士さんだった。
優しそうな笑顔に、私は思わず心の堰を切ってしまった。

「……言葉が、全然出ないんです。もう2歳半なのに」
「周りの子はもっとお喋りしているのに、この子はずっと無口で」
「私のせいかもしれないって、毎日不安で……」

初対面の保育士さんに、泣きそうになりながら一気にまくしたてた。
保育士さんは、私の話を遮ることなく、うんうんと頷きながら聞いてくれた。

そして、息子のほうを見て、ゆっくりとこう言った。

「お母さん、この子の目、見てごらん」

言われた通りに息子の顔を見ると、プラレールを繋げるたびに、息子は私のほうをチラッと見て、嬉しそうに目を細めていた。

「あ!」と小さく声を出しながら、完成した線路を私に見せている。

「言葉は出てないかもしれないけど、この子、お母さんにいっぱいお話ししてるよ」
「『見て見て、できたよ』って、目や体全体で伝えてる」
「言葉のタンクに、今、いーっぱい水が貯まってる最中なんだね。溢れるタイミングは、この子が決めることだから」

その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸がプツンと切れたように、涙が溢れて止まらなくなった。

「比較」をやめた日

私は、息子の「できないこと」ばかりに目を向けていた。
周りの子と比べて、足りないものばかりを探していた。

でも、息子は息子なりに、一生懸命コミュニケーションをとろうとしていたんだ。
言葉にならない声で。
表情で。
小さな手振りを交えて。

その日の夜、夫にも児童館での出来事を話した。
夫は「だから言ったじゃん」と笑いながら、「焦らなくていいんだよ」と、初めて私の不安に寄り添ってくれた気がした。

次の日から、私は意識的に「比べる」ことをやめた。

公園で同い年の子が喋っていても、「すごいねえ」と心の中で拍手を送るだけ。
ネットで発達の目安を検索するのもやめた。

その代わり、息子が私を見てニコッと笑った時。
ブロックを積み上げて自慢げな顔をした時。
その瞬間、その表情を、しっかりと受け止めることに集中した。

「できたね!」
「すごいねえ!」

私が大げさに反応すると、息子はさらに嬉しそうな顔をする。
言葉はなくても、私たちの会話は確実に成立していた。

溢れ出した言葉

それから半年後。
息子が3歳になる少し前のこと。

夕飯の準備をしていると、足元でトミカを走らせていた息子が、ふと顔を上げた。

「ママ」

はっきりと、そう聞こえた。

「ママ、ぶーぶ、あかい」

赤い消防車を指さして、息子は確かにそう言ったのだ。
私は持っていたお玉を放り出して、息子を力いっぱい抱きしめた。

「赤いね!赤いぶーぶだね!」

息子は不思議そうな顔をしながらも、嬉しそうに「あかい」と繰り返した。
保育士さんの言っていた通り、言葉のタンクから、ついに水が溢れ出した瞬間だった。

親の不安は子供に伝わる

今、息子は3歳半になり、うるさいくらいに喋り倒している。
「あの時の無口な息子を返して」と冗談で言いたくなるくらいだ。

言葉が遅かった時期、私が一番反省しているのは、焦ってイライラしていたこと。
親の不安や緊張は、きっと子供にも伝わってしまう。
「なんで喋らないの?」という無言のプレッシャーを、息子は感じ取っていたかもしれない。

子供の成長スピードは、本当に人それぞれ。
周りと比べて焦っても、何一つ良いことはない。

もし今、子供の発達で悩んで、過去の私のように検索魔になっているお母さんがいたら、伝えたい。

スマホを置いて、子供の目を見てあげてほしい。
言葉が出ていなくても、子供は体全体で、あなたにたくさんのメッセージを送っているはずだから。

その小さなサインを受け止めて、一緒に笑い合うこと。
それが、一番の言葉の練習になるのだと、私は信じている。

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