「もう、帰りたい……」
休日のショッピングモール。賑やかな人混みの中で、私は一人、大きなため息をついた。
私の足元では、3歳の息子が「あれ買う!あれ買う!」と床にひっくり返ってギャン泣きしている。
隣にいる夫は、「ほら、おもちゃ売り場行こうか」と機嫌を取ろうとしているけれど、息子は全く聞く耳を持たない。
周りの人たちの「あらあら」という視線が、チクチクと突き刺さる。
ベビーカーには、オムツや着替え、水筒、おやつがパンパンに詰まった巨大なマザーズバッグがぶら下がっている。
「せっかくの休日だから、家族でお出かけしよう」
そう提案したのは、他でもない私だった。
でも、家を出てからわずか2時間で、私は完全に後悔していた。
私は32歳。普段は事務のパートをしている。
平日は仕事と保育園の送迎でバタバタだからこそ、休日は「家族の思い出」を作りたくて、つい張り切ってしまうのだ。
出発前の「見えない戦争」
子供とのお出かけは、家を出る前からすでに戦いが始まっている。
朝、夫と息子がテレビを見ている間、私は一人で準備に追われる。
行き先の天気と気温を調べて、息子の着替えを2セット用意する。
お腹が空いてぐずった時用のおやつとジュースをタッパーに詰める。
除菌シートに、オムツに、お尻ふきに、ビニール袋。
「もしも」の事態に備えて、バッグはどんどん重くなっていく。
「ねえ、まだ出かけないの?」
自分の身支度を5分で終えた夫が、ソファから声をかけてくる。
その一言に、私の中でイライラが爆発する。
「私だって準備してるの!自分の荷物だけ持てばいい人は気楽でいいよね!」
そんな険悪なムードで家を出発するから、車の中の空気は最悪だ。
そして、目的地に着いた頃には、私はすでに「今日の体力の8割」を使い果たしている状態だった。
「完璧なお出かけ」という呪縛
その日のショッピングモールも、同じだった。
張り切って準備をして、機嫌の悪い夫と車に乗り込み、到着してからは息子の「抱っこ!」「歩かない!」「お菓子!」という要求に振り回される。
フードコートでお昼ご飯を食べようとしても、息子はうどんをひっくり返し、私は自分の冷めたラーメンを5分で掻き込む。
そして、冒頭の「床にひっくり返ってギャン泣き」のコンボだ。
泣き叫ぶ息子を無理やりベビーカーに押し込みながら、私は泣きそうになっていた。
「なんでいつも、こうなるんだろう」
SNSを開けば、綺麗な服を着たママが、笑顔の子供と一緒におしゃれなカフェでランチをしている写真が並んでいる。
「家族でテーマパークに行ってきました!」という幸せそうな投稿ばかりが目に入る。
「私のお出かけは、ただ疲れるだけ。全然楽しくない」
帰りの車の中、疲れ果てて眠る息子を見ながら、私はふと気づいた。
私は、「SNSみたいな完璧なお出かけ」をしようとして、自分を追い詰めていたんじゃないか。
「何かあった時のために」と大量の荷物を詰め込み。
「せっかく来たんだから」と無理に予定を詰め込み。
「子供を怒らせちゃダメだ」と周りの目を気にして機嫌を取る。
その「完璧」を目指すあまり、一番大切な「自分自身が楽しむこと」を完全に忘れていたのだ。
「準備」と「予定」を手放す
次の休日。
私は、お出かけのスタイルを根本から変えることにした。
まず、「もしも」のための大量の荷物をやめた。
着替えは1セットだけ。おやつもジュースも持たない。
「もし服が汚れたら、その辺の西松屋で買えばいい。喉が渇いたら、自販機でお茶を買えばいい」
そう割り切って、マザーズバッグを半分以下のサイズにした。
荷物が軽いだけで、驚くほど足取りが軽くなった。
そして、「目的地」と「予定」も手放した。
遠くのショッピングモールやテーマパークに行くのをやめ、「近所の大きめの公園」に行くことだけを決めた。
お昼ご飯も、わざわざレストランに入らない。
途中のコンビニで、おにぎりと唐揚げを買って、公園のベンチで食べる。
「え、これだけでいいの?」
夫も驚いていたけれど、結果的に、この日は今までで一番「楽しいお出かけ」になった。
息子は、公園の滑り台を無限にループして大喜びしている。
服が泥だらけになっても、「まあ、すぐ帰るし」と思えば気にならない。
お腹が空いたら、ベンチでコンビニのおにぎりを頬張る。レストランで騒ぐのをヒヤヒヤしながら見守る必要もない。
そして何より、私自身が「疲れていない」ことに気づいた。
「帰りたくなったら帰る」という最強のルール
準備に時間をかけず、予定も詰め込まない。
そして、私の中に一つ、新しいルールができた。
「子供がぐずったら、すぐに帰る」
せっかく来たから、もったいないから、という執着を捨てる。
「あーあ、今日は機嫌悪い日だったね。じゃあ帰ってDVD見よう!」と、潔く撤退する。
この「逃げ道」があるだけで、お出かけに対するプレッシャーは嘘のように消え去った。
子供とのお出かけは、決してSNSのような「キラキラした思い出作り」ばかりじゃない。
大半は、親の忍耐と体力勝負だ。
だからこそ、親が「疲れない」ための手抜きが必要なのだ。
もし今、週末のお出かけの準備でため息をつき、「もう帰りたい」と出先で泣きそうになっているママがいるなら。
マザーズバッグの中身を、半分に減らしてみてほしい。
そして、「せっかく来たんだから」という言葉を捨ててみてほしい。
完璧なお出かけなんて、どこにもない。
親がリラックスして笑っていられる「手抜きのお出かけ」こそが、子供にとっても一番の思い出になるはずだから。